インドでは牛乳とローズシロップを混ぜた物が日常的に飲まれているらしい。
バラ味の食べ物が好きで、その情報を参考にしてバラジャムと牛乳を混ぜた物をよく飲んでいる。
見た目はさほど普通の牛乳と変わらないが、味覚嗅覚共に甘く、優しくバラを感じておしゃれな気分になれる。おやつの時間の幸福感が増幅される良い飲み物である。
花びらの食感も味わえるのがジャムならではの利点。
冷たいままでもおいしいが、温めた方がよりバラを強く感じられる。
このホットバラジャム牛乳がかなり気に入っているので他のジャムでも試してみたい。おいしい発見があるかもしれない。
「ジャムなら大体おいしいんじゃない?」
そう言いながらも、友人であるロム猫さん(写真左)と種さん(写真中央)の2人が付き合ってくれた。
今回は2人が用意してくれた2種と筆者が用意した4種。合わせて6種のジャムを混ぜた牛乳を飲む。ジャムと牛乳によるドラマの幕開けであった。
【1】 バラジャム
最初はバラジャム。この企画のきっかけであり、これに乗じて布教したい飲み方だ。
人生で一度も牛乳にジャムを入れたことの無い2人にまずはこの味を知ってもらう。
コップにジャムを2,3杯入れて、
牛乳と混ぜるだけ。温める必要性も伝えたいので、まずは冷めたいままで飲んでもらう。
「うっすら香りがするけど……ほぼ牛乳の匂い」
「甘みのついた牛乳……?後味がややバラかな」
本当にこれがイチオシの飲み物なのかと言いたげな微妙なリアクション。
なんでわざわざやろうと思った?という雰囲気もうっすら漂う。
では、とレンジで温めた物を差し出す、と、
「!バラの香りが強くなった!」「花の味がすごい!これは良い!おいしい!」
さっきの空気は何だったのかという程2人のテンションは急上昇。
温めることによって豊かなバラの香りが広がり、味の主張も強くなる。
シンプルなクッキーと一緒に頂くと最高なんですよと言うと全力の同意が返ってきた。
外国で日本人と遭遇した時のような安心感。最高だと思っている物の最高さを理解してもらえて嬉しい。2人のリアクションと、企画が認められたことにほっとしながら、ガッツポーズで次へ進む。
なお、これ以降温めたもののみを評価していく。
【2】白桃ジャム
「その辺のスーパーでも売ってるし、絶対おいしいと思って」
種さんが確信の瞳で出してきたのは白桃のジャムだ。メジャーなジャムだからこその安心感。では早速と提案者である彼女が口にした直後、顔を曇らせた。
「……バラほどじゃない」
ロム猫さんも「おいしいはおいしいんだけど」と頭上にクエスチョンマークを浮かべる。右に左に上に下にと首をひねりまくる2人を見ながらマグを取り、流れ込む牛乳と白桃の果肉を口の中で受け止める。
うーん。不味くはない。……不味くはない、のだが。
温められた牛乳と白桃ジャムは、ただただ温められた牛乳と温められた白桃ジャムであり、その味は交わることなくただ平行に並んでいる。特に白桃の主張がほとんど感じられない。会話の無いお見合いの席を連想させた。
マグを傾けると薄桃色の果肉が牛乳の下からこちらの様子をうかがっている。
飲む直前まで我々人間達からは「果肉のかたまりがキュート」と評価されていた白桃ジャムだったが、その居場所は牛乳ではなかった。
【3】ココナッツジャム
桃ジャム牛乳に無知を身につまされたところで我々3人が初対面のジャムへと移る。ココナッツジャムだ。シンガポールやマレーシアで食べられているもので、別名カヤジャムというらしい。ココナッツミルクと砂糖、それから卵が入っている褐色のペースト状ジャムである。
牛乳と混ぜ合わせる前に匂いを嗅いでみると、アーモンドのようなナッツ系の香り。
パッケージに記載された材料を読み上げてもロム猫さんはココナッツジャムであることを疑っている。筆者としては、牛乳を入れたらココナッツミルクに戻ったりしないかと期待していたのだが……?
温められたことによってより混ざり合い、シチュー色になったそれは、
冷えた状態の時以上に『ココナッツ』のイメージとはかけ離れた、豆を煮たようななんともまろやかな匂いを発していた。ロム猫さんはそれを「ポップコーンの匂いだ!」と叫び、種さんは始終「なにこれ」と呟いていた。南国のイメージから遠いことは確かである。
味に関してもおしるこ、グリーンティー、おまんじゅうと各々が違うものを想像している。各々が上げる似た味の食べ物が全部バラバラだったが、あんこの和菓子の味であるということで落ち着いた。なんとなくざらついた食感があるところもあんこ感がある。
和菓子と一緒に頂くのが良さそうだ。
【4】ブラックカラントジャム
可愛く飾り付けられているが色のインパクトが強い。
「何か分からなかったけど見た目重視で買ってきた」そんなロム猫さんのブラックカラントジャム。あえてブラックカラントが何なのかを調べずに事を進めていくことになったが果たして。
瓶の中だと佃煮のようにも見えるが深い黒の中にもやや赤みもあり、ベリー感。なんなんだ。覗き込む全員が口をつけたくない顔をしていた。
レンジから出すと赤黒い果実と分離した牛乳とでちょっとした地獄が出現していた。
用意した責任を取る、とロム猫さんがマグを手に取る。
「ははははは...やべえこれおいしいかもしんない。チーズみたいな味がする!
だってあの、ほら、この、ほら!牛乳がさあ、牛乳の成分が固まってるもん!」
「ええーっこわいこわいこわいこわいこわい...あとちょっと、くさい」
「こわいこわいこわーい....えっ!?あっ、おいしい〜」
二人ともコントのようなリアクションの大逆転。
筆者の口には合わなかったが……
日常で飲むタイミングがあるとしたら朝食や就寝前だろうか。
二人が言うようにチーズ、もしくはヨーグルトのような味なのだが、塊となった成分が口の中にでゅるっと入ってくる感覚が少し怖い。ブラックカラントらしい香りはほぼ無く、酸っぱい匂いがするので余計にミステリアスな飲み物と化している。
なお、ブラックカラントの正体はカシスであった。フランス語ではカシス、英語だとブラックカラントと呼ばれるそう。
カシスオレンジやカシスウーロンなど、お酒の名前の方が馴染みがある。
正体を知るまでは目を白黒させながら飲み込んだが、知り合いにドッキリを仕掛けられた気持ちになった。根は良いやつだが、過激派である。
【5】クレイジーオニオンジャム
5つ目はクレイジーオニオンジャム。主に淡路島産たまねぎが使用されていてスパイシーな香りがする。甘い物というイメージの強いジャムとは印象が異なる。
温められたクレイジーオニオンジャム牛乳と、比較されるポタージュスープ。
見た目はうっすら色づいた程度だが、完全におかず系の匂いがする。
「スープバー!」「クラムチャウダーみたいな匂い!」「クリスマスの匂いだって!」
冬の幸せワードが例えとして飛び交う中、ロム猫さんが元気にマグを取った。
!!
「コレネェ、ナンカネェ、オイシクハナイカナ」
ハッピーエンドで終わりそうなゾンビ映画が急展開を迎えたような空気感。
「あの、どっちかにしてほしいんすよ。あの、甘さと、しょっぱさと、」
「ポタージュとジャムの間でね、揺れ動くんですよ、この子は」
「...な、な、無し...?ありっちゃあり...?あり寄りの無し...?」
口に入ってきた直後までは完全にスープなので違和感がすごい。既に出来上がっている食べ物に一工夫組する為のものとして作られているのかもしれない。複雑な味がする。
こういうものだと思えば飲めなくもない、という意見もあったが自分を誤魔化してまで飲む必要はない。クレイジーオニオンジャムには美味しい料理に添えられて幸せに暮らしてほしい。
【6】 生姜ジャム
国産生姜使用生姜のどジャム!
見つけた際にはその名がそのまま口から出る程驚いた。なんせ「のどジャム」である。そんなジャンルがあるのか。名前にしちゃうくらいなので余程のどに自信があるのだろう。最後はこの生姜ジャムだ。
フタを開けると T H E シ ョ ウ ガ !
用意しておいてなんだが、刺激的ですらある強い生姜の香りに怯んでしまった。
主張の強い飲み物になりそうだ。
おそるおそる口にすると、ジャム単体の時の強烈な生姜の香りも刺激もマイルドで驚きの好印象。良い意味で印象が弱くなり、生姜が苦手でも飲める味に。
喉に良さそうな雰囲気はそのまま。体もぽかぽかする。
生姜が牛乳のやさしさに包まれ、手と手を取り合ってマッハで結婚式を迎えているイメージが脳内を駆け巡り、幸せな気分になってくる。
幸福感が溢れまくっている飲み物にうっかり「寒い日に遊びに行った家で出されたら胸きゅんかも」などという感想が漏れた。うっかり過ぎてびっくりした。
だが飲んだ全員恋愛妄想を始める程に同じ意見。
「絶対女子が好きなやつ」「なんか、あったかい……」「気になる子家に呼べる」
単純に寒い季節に良さそうだと思って用意したが、生姜ジャム牛乳に恋のかけ橋となる可能性を見出した。ときめきをご所望な方全員にこれを飲ませたい。
ジャム牛乳総括
6種すべて飲み終えたところで、どれが一番おいしいと感じたか話し合った。
結果はバラと生姜であった。
「溶かす前のインパクトとその後のギャップが一番大きかったから」
と、生姜ジャムを選んだのはロム猫さん。 種さんはバラを飲み終わったあともバラがうまいうまいと呟いていたので余程気に入ってもらえたとみえる。
筆者も結局はバラが一番美味しいと感じたのだが、今回の結果からすると、よく知っているつもりのジャムでも予想外の味になる可能性があると大いに考えられる。
バラジャム、生姜ジャムを超えるものもあるかもしれない。
これからは新しいジャムを買う度に牛乳と混ぜ合わせることになりそうだ。