梅ログ

オレにさわるとあったかいぜ

架空の誰かの食事について考える

突然ですが、あなたは毎日何を食べていますか。

 

食事にはその人の性格や食への考え、そして生活が表れる。
一緒にコンビニに入店したとしても、自分はその存在に気付きもしなかった物を好んで選んでいる人もいるのだ。皆何を食べているのだろう。どうやって献立を考えているのだろう。

 

筆者は市販のお惣菜とフルグラ、サプリメントプロテインのローテーション、時々外食という食生活を送っている。思考と手間を放棄して手軽さを最重視した結果だ。

だが、正直飽きている。この食生活はもう続けられない。自炊も嫌いじゃないが、今の生活スケジュールと環境では厳しい。そして思いついた。

自分とは異なる生活をしている他人のつもりになることで、この食生活が変わる糸口が見つかるかもしれない。

自分ではない誰かの生活を想像し、一日分の食事を考えてみたい。

 

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左から鈴木さん、筆者、種さん、じうがわさん、みきぽさん、オイヌマハルカさん。

架空の人物の献立を考えるのに付き合ってほしいと声をかけたら集まってくれた。誘いの内容に首を傾げながらも付き合ってくれる良き友人である。

すました顔で写っているが全員生きた人間。日々見えないところで必死に献立を考えていることだろう。

折角集まって悩みと向き合うのだ、今回の経験から高級教材が作れるくらい素晴らしい日にしたい。

  

なお、この企画で購入した食品はすべて、献立で楽をしたい筆者が持って帰ることにした。
同じお金を払うならいつも食べてるものより少しだけいいものが食べられそうなお店がいい。

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そこで頭に浮かんだのが、こだわりの見える輸入食品や国産商品を揃えているカルディコーヒーファーム
なかなか見ないような商品が多く置かれている。コンセプト的にはやや高価なお店の印象ではあるが、イメージより安く買えるものも多くある。少額予算でも普段と趣が異なるものがお腹いっぱい食べられそうだ。
ということで参加者全員でカルディで買い物をすることにした。購入ルールは下記の通りである。

 

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なるべく筆者と食費予算が近い人を思い描いてもらうために1,000円で予算を統一した。
この中に調理に必要な、水やお米、野菜などの料金は含まない。
とはいえ一日で食費に使える合計金額が1,000円というのは現実的にはやや厳しい設定であると思う。

悩みながらも買い物を済ませると、各々の脳内に住まわせた人物を発表するために我々は公園へと向かった。

 

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お花見スタイルで失礼。桜をほどほどに楽しみつつ、一番手は筆者だ。

「32歳の事務系OL。体型の変化が気になる今日この頃。これはダイエットを決意した一日目の食事です」

 

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「朝食のジュレは一個だけですか?」
「一個だけです。おしゃれなビジュアル、カロリーが低いという点で選んでいます。あとはお腹に溜まりそうというイメージで」

 

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「お昼は……ダイエット感無いですね。夜ごはんも全くヘルシーでない。」
私の脳内に現れた女性は、とりあえず雰囲気でダイエットを始めようと決意したものの、そういった類のほとんど知識がないという設定だ。

 

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食材を並べた時点で、参加者が職業は?独身?どうやって食べるの?など質問してくれて、脳内には無かった細かな設定もその場で組み立てられていくので人物の輪郭がはっきりしてきて楽しい。

 

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「ダイエット一日目なので家に食料ストックがあります。昼と夜はそこから、とりあえず賞味期限が近いものを消化しようと考えたチョイスです。担々麺はカロリー高めだけどお昼だから大丈夫、夜はお酒を飲んでも一緒にご飯食べなければ大丈夫、だと思ってるので食事らしい食事はとりません。これだけ。無計画なんです」

「ダイエットしようとしている人の食事とは思えない。知識がないのが分かる」
「栄養学小学生」

企画としては成立しているが、自分より酷いかどっこいどっこいの生活をしている人を生み出してしまった。
食生活を変えたいという思惑には失敗している。
続くメンバーにはもっと意思の強い人を紹介してくれることを期待したい。

 

「梅子さんと少し設定が被ってるんですけど……」
そう言いながら次に発表を始めたのはじうがわさん。

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「この人はダイエットをしている24歳くらいの女性です。常に体型を気にしています。
美意識は高いのですが、朝使った化粧品を出しっぱなしにするなど雑な面があります」

 

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「この人が梅子さんと違うのは、多少知識があります。最近糖質制限をしています」
突然32歳事務女性にマウントをとりだす24歳医療事務。

「お昼は職場の電子レンジで温めて食べます。鯖は糖質制限ダイエットの味方だし、ミネストローネは野菜がたくさん摂れます」

 

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「"アンタダイエットしてんの?大丈夫よ若いんだから~"って給湯室で先輩に突っ込まれる」
「"先輩、飲み会でデザート食べるのやめたら良いんじゃないですかー?"って後輩に嫌味言われてる」
「その場では笑ってるけど、"飲み会では出されたから食べただけなんだけどなあ…"ってあとでtwitterに書きますね、この人は」

 

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特に驚いたのが糖質制限スパゲッティ。カルディは様々な種類の麺を置いているが、こういったものもあるというのは気づかなかった。明らかに体に気を遣っている人向けの商品だ。

 

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糖質制限できるし、これなら遅い時間に帰ってきてもさっと作れると思って」
「ちゃんと痩せようという意思が見える」

ダイエットとはなんたるかと考えさせられる献立が生み出された。私の中のOLに見習ってほしい。

なお、じうがわさん本人の食生活は、元気があれば自炊、そうでなければ外食、というスタンスらしい。夕食にさっと作れるからという理由でのスパゲッティ、かつ低糖質なものを選んだあたりにその生活が伺える。

 

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三番目はオイヌマハルカさん。ニコニコしながら買ったものを全て取り出した。

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「休みの日なのに夕方4時に起きちゃったOLです。これは1.5食くらい。4時から7時くらいにかけてだらだら食べる。夜ご飯、じゃなくて、起きてまた寝るまでにだらだらしながら食べます」

 

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「1,000円の上限を設定でカバーしようとしてる。でもリアルな感じがすごい、こういう人いる」

チーズフォンデュは電子レンジで作れるやつです。だから調理しなくていい」

 

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「このトマトスープは実家から送られてきたやつなんじゃないかと思う。この人ここまで考え至らないでしょ」
「お母さんが教えてくれたことを全部忘れてる」
遅い時間に起きてしまった際の食事に対する消化試合のような姿勢が共感を呼んでいた。

この人はオイヌマさん本人では?という声が上がったが実際の彼女は毎日和食を自炊をしているそうだ。

 

続く三人目は、ジムに通ったりオーガニックに興味を持っていたり、普段から生活に対する意識の高さを垣間見せる種さんだ。

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「営業部との交流もあって体育会系の雰囲気もあり、食生活が適当になりがち。オーガニックを意識していて、正しい生活を取り戻そうとしています。そんな働く女子の平日のオフィスで食べるメニューを考えました」

そう話しながら、語りに合わせてひとつずつ食べ物を並べていく。

 

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「化粧品会社オフィス勤務、28歳の営業事務女子。
朝は時間が無いので、とりあえず出社して、クッキーとコーヒーとちょっとつまみます。これだったら仕事しながら食べてもいいのではと考えた結果のチョイスです。でも厳しい上司にはナシだと思われてる。」

 

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「お昼は社食があるのでここでは無し。
糖分が欲しくなる午後三時頃、フェアトレードのチョコレートを齧りつつ、
すっきり気分を変えるためにオーガニックレモンジュースをお供に仕事をします」

 

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「今夜はオーガニックペンネを使って料理……のつもりだったんだけど、
家に帰ってきた頃にはへとへとで。結局作らない」

「結局作らない!?」 

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「代わりに帰る途中で買ってきたオーガニックじゃない春雨を食べます」
「急にジャンクなものがでてきた」
「限られた予算の中で切り捨ててくる発想がすごい。買い物が演技してる」

 

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合間合間に投げかけられる質問や意見を取り入れながらとはいえリアリティのある内容、
そして思わぬストーリー展開に全員、息を飲んだ。

1,000円で人は生きていけないのでは?と皆悩んでいた買い物。
予算の低さを架空の社員食堂で補い、さらに結局使わない食材までも出てくる点が強烈だ。
このアイデアを実際の生活に活かすには社員食堂を開く必要があるが、あくまでこれは化粧品会社勤務の彼女の人生である。

 

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「カルディ好きな女の買い物」「カルディを120%活用してる」との声を受けながら
満面のしたり顔で「全身全霊をかけて買いました」と一言。彼女は発表を終えた。

 

五番目はみきぽさん。買い物時間が一番長く、「うちの子は、私の中の女は小分けを買うか?大袋を買うか?」と、ギリギリまで脳内の人物の姿を追っていた。圧倒的妄想力の高さを誇る彼女の生み出した"女"がこれだ。

f:id:komeumeko:20190416134311j:plain「30代外資系OL、趣味は海外旅行です。
外資系なので多忙。だけどその分お金はあるし、独身なのでたまの旅行でめちゃくちゃお金を使っています。

今日は珍しく予定の無い休日です。こちらがその日の朝食になります」

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「ご飯を入れるだけでできる海老トマトクリームリゾットです。
朝起きてすぐ料理をする気はそんなにないので、ご飯を温めて混ぜればいけるものをまず食べます。そして今日は休みなので、朝からビール」 

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「これは普通のビールじゃないな?」
「これはベルギー産のビールなんですけど、去年旅行先で気に入ったものをカルディで見つけたので買いました。
現地とはパッケージが違うのがポイントです。あとで現地で撮った写真と一緒にSNSに投稿します」
「"#カルディ"って入れてると思う」

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「お昼ご飯は美味しそうなウニクリームソースをかけた、生パスタ。クリームが好きです。
海外の料理の味も知っているため、この女は基本的に舌が肥えています。合わないと思ったものは絶対に食べません」
痛風が心配」

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「そして夕食はイエローカレーです。これはカレーの素で、ココナッツミルクとか入れて煮込むと本場風のカレーができます。
野菜なども一緒に煮込むのでこれで栄養面は帳尻を合わせた気になっています。
ハラールマークも入ってる製品なのでムスリムの人も食べられます。本場重視なのがポイントです。
因みにタイ現地に行った時美味しかった物をカルディで買いました。あとで日本で買ったら高かった!ってSNSに投稿します」
「絶対"#カルディ"って入れてる」

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お昼はお金をかけて味をカバー、夜は手料理で栄養をカバー、そして"SNS映え"を意識した今風の献立。どれも美味しそうである。
海外を意識された内容も職業と趣味を反映されていて上手い。

実際の彼女の食生活を尋ねたところ、筆者に近いものを感じた。今回の「他人になったつもりで献立を考える(そして食生活を良い意味で変える)」という意味では百点満点である。
また、発表中は基本淡々と話されていたが、時折みきぽさんの中の"女"が彼女の口を借りて話しているようなプレゼンスキルの高さも印象的だった。

 

最後は今回のメンバーで唯一の男性、鈴木さん。
「オイヌマさんの安息日OLと同じ系統なので全部まとめて説明します」と食材を広げたが、彼の口から出たストーリーは、"オイヌマさんと同じ系統"という言葉から浮かべた我々の想像を裏切る内容であった。

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「彼は新聞配達のバイトで学費を貯めようとしているアメリカの少年です。

幼い頃に図書館で恐竜の本を見て"僕も理系の学校に行きたい"と夢を抱いた少年。
お父さんとお母さんは農場で働いています。それも住み込みで働いているような感じで、生活に余裕はないんですね。

ずっとそこに居続けると負担になるということで、少年は一人都会へ出て、苦学生として新聞配達をしながら暮らしています。舞台は日本ではありません。アメリカ、コロラド州です」

 

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「彼は低予算で三食を賄います。主食となるのがこのクラッカーでございます」
少年は値段の割に大きめサイズのクラッカーを一パックを三食に分けて少しずつ食べる。
食事はカロリーとグラムで決めていて、いかに少ない金額で栄養を摂取するかを考えているという。他の参加者とは真逆のタイプの生活だ。

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「朝食はこのクラッカー。そして動物性たんぱく質を摂るためにオイルサーディンです。本当はハムとか乗せたいけれど、お肉を買うお金はございませんので。

朝も昼も夜も働いているのですから、眠たくなってくるわけです。
そんな時にこの一杯のコーヒーを飲みます。これは食事の楽しみでもあります。

そして夜。どうしても眠たくなってしまった、疲れがたまってしまった、という時の為に、断腸の思いでチョコレートを、糖を摂ります」

 

彼は節約のため、このチョコレートを食べ切るのに一週間かけるという。先ほど種さんの発表の中でも出てきたチョコレートだ。

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「そして最後にピクルス。これは野菜を摂る、という理由もありつつ…おばあちゃんですね」

 

「まだ家族一緒に暮らしていた頃、生前、おばあちゃんが漬けてくれたピクルスの味が忘れられず、いつでも故郷を思い出すためにこの瓶を新聞の営業所のロッカーの中に置いています。そして疲れ果てた夜に酸っぱいピクルスを食べて、故郷を思い出し、体力を回復し、学費をためる、これらを少しずつ食べる、そういう三食でございます。およそ30年前のアメリカの大規模農場に想いを馳せてこの設定を選びました」

 

語り出しから異色で黙ってしまった。
合間合間で質問を投げかける人もいたが、即興ではなく予め一貫したストーリーが形作られ的確に返答を行っていた。

因みに実際の鈴木さんはしっかり食べているようなので安心してほしい。

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余談だが、地方出身の筆者も上京したての頃は今よりも毎日生きるのに精いっぱいで、実家での食事とは打って変わり三食キャベツと冷凍白米だった。都内で地元発祥の喫茶店を見つけた時は、飲み物を頼めば軽食がついてくる故郷と同じモーニングサービスで泣いたことを思い出した。毎日同じような生活を繰り返していたとしても、少しずつ変えていけるのだ。少年には幸せになってほしい。

 

食事にはその人の性格や食への考え、そして生活が表れる。確実に表れる。
今回は6人の食事を再現したが、同じ食べ物でも食べるタイミングや食べ方という点でも違いがあって興味深かった。

買い物中も、「自分が何が食べたいか」ではなく「イメージする人はどういった物を食べたいと思うか」を軸に棚の商品を眺めて回っていると、自分が買わないもの、知らなかった食べ物を見つけることができる。
そう思うと、今の自分よりも少しだけ楽しく豊かな生活をしている人物を脳内に住まわせておけば、予算は少なくとも今の食生活を変えることができる。これで筆者のローテーションも改善できる…かもしれない。

と思いつつ、やはり生活自体を変えた方が手っ取り早そうだ。

今回集まった献立を食べながらこれからのことを考えたい。

 さて、あなたは毎日何を食べていますか。